飼い主が何も言わず去ろうとしたら?
不安で仕方がない飼い犬の噛みつき事故にも、解決方法はきっとあります。
ここでは飼い犬の噛みつき事故の対応手順について、専門行政書士が丁寧にご説明します。
この記事が、皆様の不安を解決できれば幸いです。
\犬の噛み付き事故で書くべき和解契約書🐶/
飼い犬に噛まれた時の優先順位と注意点
この際、飼い主様・被害者様も同様に興奮していますので、まずは深呼吸をして以下の手順を確認しましょう。
- ケガの治療と連絡先の交換
- 各所への連絡と必要書類の確認
- 当事者間のお話し合いの設定
- お話し合い
- お話し合いの記録と、今後の取り決め
- (番外編)お話し合いが決裂した場合
また皆様の咬傷事故に合わせて、適宜読み飛ばしていただければ幸いです。
1. ケガの治療と連絡先の交換
狂犬病の発症は日本国内において極めて稀ですが、病院にてケガの診療が行われていない場合には、治療費の請求時に領収書を提示できなくなります。そのため出来るだけケガの治療をお受けいただき、治療費の実費を明確にしておきましょう。
稀に、飼い主が噛みつき事故を大したことではないと考える場合があります。「甘噛みしただけでしょう?」と、その場を収めようとする場合などです。
この様に被害者様と飼い主には温度差がありますので、じっくり話し合う必要があるとお感じになられたら、必ず後日のお話し合いを持てる状況を作り上げておきましょう。
そして次に、相手方との連絡先の交換です。
後日お話をするためにも、お預かりするの連絡先には以下の内容を控えさせていただくと良いでしょう。
- お名前
- 確実に連絡の取れる連絡先
- ご住所
この行動は飼い主にとっては少し圧迫感があるかもしれませんが、後日のトラブルを回避する大切な要素です。「電話番号を忘れた」とその場は立ち去り、そのまま連絡が取れなくなるケースも散見されます。
この際に警察をお呼びし、噛みつき事故の調書を書いていただく方法も有効です。事故の詳細も明確になり、記録も取られ(記録の幅は事故により異なります)当事者の意識も引き締まる効果も期待できます。
ただその際、噛みつき事故に刑事事件の可能性が低いと判断された場合、その調書は状況記録に留まるでしょう。その場合、民事不介入の前提により積極的な介在は行われず、当事者間や保険会社との話し合いを薦められるでしょう。
2. 各所への連絡と必要書類の確認
ケガの治療が終わったら、次は噛みつき事故に関する届出と、話し合いの必要書類をご用意します。これらは噛みつき事故の報告・各種保険適用・和解時の治療費等の請求にも必要となる書類です。
これらの用意はケガの治療と並行して行う場合も多く、精神的にも大変だと思いますが頑張ってください。
噛みつき事故の連絡
まずは、飼い主と被害者から保健所に対して、噛みつき事故を連絡します。
保健所への連絡義務は各自治体により多少異なりますが、通常飼い犬が噛みついた場合、飼い主は保健所への連絡義務を負います。また治療を行った医師・被害者からの連絡も必要とされていますので、届出はお済みかどうかを確認しましょう。
全ての飼い主様が保健所に連絡してくれるとは限りません。時にはトラブルで感情的になり、保健所への連絡を誘導しづらい場合もあるでしょう。
その場合は被害者の方から保健所に連絡を行い、詳細な事故状況をお伝えしましょう。保健所が指導及び咬傷事故に関する確認が必要と判断すれば、飼い主様にご確認のお電話・訪問が行われます。
またこの飼い主様による保健所への連絡義務を果たしているかどうかも、相手方の誠実さを判断する基準になるでしょう。自発的にワクチン接種証明書などをご提示いただけない場合も含め、感情的なトラブルに発展する可能性もあります。
ただ届出をしていなかったことを過剰に指摘した場合、咬傷事故の論点が「人間としての不誠実さ」に擦り替わる恐れもあります。お話し合いでは、常に論点をずらさないご配慮が必要です。
参照:愛犬が人を噛んだときに飼い主が最初に行う届出と対応方法
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話し合いに必要な書類の準備
実はこれらの書類は、とても重要です。「治療費等を請求される根拠がない」と突っぱねられる場合もあり、正確な話し合いをする武器になるからです。
そのためお話し合いに臨む前に、以下の書類はご用意されておくべきでしょう。これらの書類には、飼い主様がご用意される書類も有りますので、ご了承下さい。
- 狂犬病予防証明書(飼い主様)
- ワクチン接種証明書(飼い主様)
- 動物病院による、飼い犬の検診証明書(飼い主様)
- 病院での治療後に受け取る領収書・診断書(被害者様)
- 各種加入保険の概要(飼い主様・被害者様)
飼い主様は飼い犬の狂犬病予防・ワクチン接種証明書、同時に現在感染症にかかっていないことを証明する、検診証明書をご準備ください。
これらの書類を元に、どんな治療を行ったのか、また飼い犬に感染症の恐れがないかなど、和解に向けたお話し合いが進みます。同時に保険を使用して治療費その他の費用を支払う場合、支払い限度額や支払時期をご説明する必要もあります。
さらに、各種保険を適用になり保険会社様を通じた示談交渉が行われる場合、この限りではありません。
その場合は保険会社様に今後の進め方をお伺いになり、各種の指示に基づいてご行動されてください。
特に飼い主様側は、お話し合いの前にワクチン接種証明書を相手様宅に持参するなどの配慮も必要です。
「噛みつき事故に対して、真摯に対応させてください」というスタンスが、より平和的な話し合いに繋がります。
長期的に連絡を取らない場合、誠意のない対応と判断されるケースが散見されます。
そのため心証に関しても、トラブル解決に向けた重要な要素となるでしょう。
参照:飼い犬に噛まれた時の狂犬病ワクチン接種に関する確認方法
3. 当事者による話し合いの設定
少し緊張するとは思いますが、相手からお預かりした連絡先に連絡し、話し合いの日時を設定しましょう。
これは噛まれたときの飼い主の態度からも、話し合いをするつもりなのか判断可能です。時には代理人として弁護士や保険会社様からのご連絡をいただく場合もあります。さらに相手方の態度が悪い場合には不信感も抱かれると思いますが、ここは落ち着いて行動しましょう。
そしてもしお話し合いに応じていただけない場合には、以下のアクションがあります。
- (1) 和解契約書を送付し、ご締結をお願いする
- (2) 内容証明郵便にて治療費・慰謝料を直接請求する(被害者の場合)
- (3) 保険会社から連絡をしていただく
- (4) 弁護士の先生に代理交渉をお願いする
そのため上記のアクションによりお話し合いを求めることになりますが、それぞれの持つ圧迫感は異なりますので、皆様の咬傷事故の状況に応じて方法をご選択ください。
4. 話し合い
相手の方と感情的に衝突しないよう、頭の中でシュミレーションを行うと良いでしょう。
まず、噛みつき事故における話し合いでは、以下の点を話し合います。一つづつ、確認してみましょう。
- (1) 飼い主に求められる管理責任
- (2) 治療費・慰謝料などの飼い主側の支払い義務と期日
- (3) 今後何も請求しない等の、被害者側が守るべきこと
飼い主に求められる管理責任
まずは飼い主の管理責任について、話し合いましょう。
かなり切り出しづらい内容ですが、ここから治療費等のお支払いの話し合いに繋げることができます。
この管理責任は、飼い主側が事故の責任を十分に取ろうとしない場合に、追及するべきです。
最初から飼い主が「治療費・慰謝料を全面的にお支払いします」という姿勢ならば、あえて管理責任に関する追及をしない方法も効果的です。
ただし、その場合にも和解契約書(※後半にご説明します)には、飼い主の管理責任が求められる事故であった旨は明確に記載しておきましょう。
まず飼い主の管理責任には、民法に以下の条文が定められています。
民法718条 動物の占有者等の責任
1. 動物の占有者は、その動物が他人に与えた損害を賠償する責任を負う。
ただし、動物の種類及び性質に従い相当の注意をもって管理したときは、この限りでない。
そして、この賠償責任を回避するには「相当の注意」をもって管理をしていたことを立証しなければなりません。
ただし過去の判例から見ても、相当の注意を行っていたと判断され、責任を負わなかった事例は極めて稀であり、以前にもそのわんちゃんが噛んだことがある場合には、より強い注意義務が課されます。
多くの場合は以下を確認し、管理責任について話し合います。
- リードを外していなかったか
- 散歩時の管理方法は適切だったか
- 飼い犬に対する注意は十分だったか
- 近所話など、他のことに夢中ではなかったか
- 敷地への無断立ち入りではないか
- 飼い犬をけしかけていないか
- 噛まれたときの対応は適切だったか
- すぐ話し合いに応じたか
そうすれば「自分の管理方法で、何が問題だったのか」を、よりご理解いただきやすくなります。
被害者にも噛みつき事故に過失(不注意)がある場合には、損害賠償額は過失割合に応じて減額されます。
例えば飼い犬をいたずらに挑発したり、激しくほえているにもかかわらず自分から近寄って噛まれた場合などです。
自分自身の過失も隠さずお話をすると、相手側からつっこまれることも減り、より平和的な解決を目指せるでしょう。
その場合には「頼まれただけなので責任はない」「自分の犬ではない」など、責任を取ろうとしない場合があります。
この場合には散歩人と飼い主との関係を確認した上で、再度責任問題をお話しましょう。
詳しくは以下の記事をご参照ください。
参照:散歩代行・シッターにお願いした時の散歩トラブルの法的責任
:人に愛犬の散歩を任せた時に起きた噛みつき事故の法的責任
この場合、一方の飼い主だけが責任を負うのではなく、状況に応じてそれぞれの飼い主の過失割合が加味されます。結果的に、怪我をした側の治療費を、どちらが何割負担するのかというお話し合いで決着しやすくなります。
詳しくは、以下の記事をご参照ください。
治療費等の支払い
次に、具体的な治療費の支払いについて話し合いましょう。
この段階で相手側が誠実な対応であれば、非常に良い傾向です。十分に和解も期待できるでしょう。
お互いの保険を適用する場合
まずは当事者の加入保険で、ケガの治療費を補えるかをチェックします。
以下の点をご確認下さい。
- 被害者側の傷害保険の有無(飼い犬の噛みつきに対する補償の有無)
- 飼い主側がペット保険に加入しているか
- いつ噛まれたのか(仕事中や帰宅時か)
ここで確認するのは当事者の加入保険が「噛みつき事故に対応しているか」「保険が適用される時間帯か(労災等か)」という点です。
もし当事者の加入保険が適用される場合には、相手側の保険会社と直接話し合いを行うことになるでしょう。
保険会社との話し合いではトラブル相手と対面しなくて良い反面、慰謝料などの金額が業務的に提示される場合もあります。
提示された金額で折り合いがつかない場合に、話し合いがさらに難航する場合もあります。
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治療費等を当事者間で話し合う場合
当事者間でお話し合いを続ける場合、事故における以下の治療費・慰謝料などを算出します。
- 治療費
- 休業補償
- 通院交通費
- 慰謝料
- 後遺障害による逸失利益
そして休業補償は通院などで仕事に行けず、減少した給与分を損害として計算します。給料の一日当たりの平均賃金が目安となるでしょう。
被害者の方はお勤めの会社に、「休業日数を証明できるもの」を発行してもらえるか、ご確認ください。
相手に「不当に請求された!」と感じられないように、お支払いいただく金額は出来るだけ領収等の証明があると良いでしょう。
バスや電車などの交通費に関して領収書が取りづらいものは、あえて請求しない方法も効果的です。
一般的には、自賠責保険の基準を適用し「4200円×治療日数」を慰謝料として請求する場合が多くみられます。
ただし飼い主がご近所の場合、今後の付き合いもあるでしょう。相手にご理解いただける慰謝料が宜しいかもしれません。
お話し合いの場では、相手の方に慰謝料について切り出しづらいと思います。
単刀直入にいうのではなく、その場合「事故について、治療費以外にどのくらいでお考えですか?」といった表現もあります。
飼い主の方から被害者の方に対しては、「謝罪金」「お見舞金」などの表現が柔らかく切り出しやすいでしょう。
例えば、お子様が飼い犬に噛まれて顔に傷が残り、形成手術等を検討している場合などです。
今回の場合では、噛みつき事故が原因となって発生した後遺障害により、今まで可能だった仕事などが出来なくなることがあります。
そして、今まで通りに仕事などができていたら本来受け取れた利益、それが逸失利益です。
その噛まれた傷が後遺障害に該当すれば、「後遺障害慰謝料」として、慰謝料とは別途請求可能と考えられます。
この後遺障害慰謝料の算定は非常に難しく、保険会社や治療をした医師と相談された上でご判断されると良いでしょう。
後遺障害慰謝料や逸失利益を請求する場合、その算定に時間がかかる場合があります。
その場合は先に和解契約書を締結し、その中に後遺障害慰謝料や逸失利益は手術等の領収書をベースに後日請求する旨を記載する方法もあります。
この配慮を施す理由は、噛みつき事故からあまり時間を空けず、謝罪の意思が強いうちに和解契約書を締結したいからです。
5. 記録と今後の取り決め
これは「トラブルの蒸し返し予防」と「支払いが滞った場合の請求根拠」を用意するという、二つの意味合いがあります。
ペットの噛みつき事故の際に作成するべき書類は、和解契約書もしくは示談書になります。
和解契約書と示談書には少し差がありますが、ここでは大きく以下の内容を明確に契約するものとお考え下さい。
- (1) 当事者間の支払い金額と支払期限の設定
- (2) その他の和解上の条件(飼育方法の改善など)
- (3) お互いが和解し、今後一切何も請求しない旨
「今回の噛みつき事故に関しては今後一切、別の損害賠償などを請求しない」などの条項がそれに当たり、当事者がお話し合いに合意した旨と、契約書に書かれていること以外は一切請求しない旨を約束します。
この条項が明確な和解契約書を締結することで、今後一切の請求が行われず、普段の生活に戻ることができます。
トラブルの相手が和解契約書など書面に残したくない!と断る場合もあるでしょう。
その場合は、相手にとってもメリットのある事項を契約書の前半に記載し、「お?これなら締結する意味もあるな」と相手に感じていただくことが大切です。
例えば、「飼育改善費用を一部負担する」や「関係各所に一切の要望を出さない」などの表現が効果的です。
参照:ペットトラブルの示談書作成手順とその書き方(文例付き)
\口約束で終わらせないで!
犬の噛み付き和解契約書🐶/
話し合えない・決裂した場合の対処法
それは治療費や慰謝料の多さが原因かもしれませんし、人間的にそりが合わないことも十分にあり得ます。
この場合には、以下の方法が検討されます。
- 内容証明郵便にて、算出した治療費・慰謝料を請求する
- マンションの管理組合や共通の知り合いなど、第三者を含めて再度話し合う
- 治療費等の金額を下げた和解契約書を送付する
- 簡易裁判所に民事調停を申し込む
- 弁護士にお願いする
- 民事訴訟を提起する
つまり、自分からもう一度アクションする場合と、別の方や機関にお願いする方法の2種類に大きく分かれます。
では、それぞれの方法の特徴を見てみましょう。
自分から相手に対してアクションする
- 内容証明郵便にて、算出した治療費・慰謝料を請求する
- マンションの管理組合や共通の知り合いなど、第三者を含めて再度話し合う
- 治療費等の金額を下げた和解契約書を送付する
治療費や慰謝料などの金額が大きすぎた場合、その金額を下げた内容の和解契約書を再送付して締結をお願いする方法もあります。
また、相手方に民法の責任を追及する意思を強く伝える場合、内容証明郵便などの請求文を送付する場合もあります。
この場合、和解をするつもりはあるが、請求に応じられない場合には民事訴訟等を検討している、などの旨を記載するのが一般的です。
内容証明郵便で相手方に責任がない部分までを過度に追及してしまうと、不当請求と見なされる恐れがあります。
噛みつき事故における相手方の責任部分を明確に指摘し、請求に応じていただけるような記載を行いましょう。
弁護士や他の機関から間接的にアクションする
- 簡易裁判所に民事調停を申し込む
- 弁護士にお願いする
- 民事訴訟を提起する
これらの効果は非常に高く、トラブルの最終手段として位置付けている方も多いでしょう。
そしてその中でも、ペットトラブルにおける話し合い手段として、民事調停という手段が多く選択されています。
比較的費用も安く、決着も早いのが特徴です。調停成立などで解決した事件の、約8割が3ヶ月以内に終了しています。
トラブルの相手が民事調停について調べ、その性質を熟知している場合もあるでしょう。
その場合、呼び出しに応じないケースもあるかもしれません。
トラブルがそこまで複雑化した場合には、やはり弁護士の先生等にご依頼される方がより確実と言えるでしょう。
そして自分の言い分が伝わらない時には、相手の論理を考えることも大切だと思います。
少しでもお悩みでしたら、ぜひお気軽にご相談ください。
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