愛犬が人を噛んだ時に飼い主が行う届出と話し合いの手順
散歩中、愛犬が人を噛んでしまったら?
被害者の方と平和的に話し合うには?
様々な原因で発生してしまう、愛犬の噛みつき事故。

その時飼い主様は、どの様な届出とお話し合いをされるべきでしょうか。

ここでは飼い犬の噛みつき事故に対する飼い主の手続きについて、専門行政書士が丁寧にご説明します。

この記事が、皆様のペットトラブル解決のお役に立てば幸いです!

噛みつきによるケガの治療手順

噛みつき事故が起きてしまった場合、飼い主様・被害者様も大変不安に感じます。

ただその場合でも被害を最小限に留めるために、具体的な行動を選択しなければなりません。

そのため、まずはケガの治療二次被害の予防から行います。

もし噛みつき後に本記事をご覧いただいている場合は、読み飛ばしていただければ幸いです。

ケガの治療の手配と飼い犬の係留

噛みつき事故で最優先するべきは、当然ながら噛まれた方のケガの治療です。

そして次に二次被害を予防するために、噛みついてしまった飼い犬を係留します。

その全体像は、以下の流れとなります。

  • 飼い犬を近くに係留する
  • 噛まれた方のかかりつけの病院を確認する
  • 病院までの移動手段を用意する
  • 警察の方に調書をとってもらう
ここでは「病院までの交通手段を確保する」→「飼い犬を鎖でつなぐ」の行動を、出来るだけ並行しながら行います。

この際、飼い犬を近くに係留(リードなどでつなぐ)し、周囲の人に近づけない様にするわけですが、興奮した飼い犬が飼い主にも噛みつく恐れがありますので、ご注意ください。

ご自宅が近い場合は、ご家族に連れ帰っていただくか、病院手配後に連れて帰りましょう。その後、速やかに被害者の方と病院に同伴されると良いでしょう。

また、噛まれた方が持病をお持ちの場合もありますので、かかりつけの病院を伺いましょう。ただその病院が遠方の場合、近隣の病院を選択することも必要です。

特に噛まれた方がご老人やお子さんの場合・ケガの程度が大きい場合には、治療の遅れは危険ですので、迷わず救急車を呼びましょう。

もし飼い主の方がどうしても病院に同伴できない場合でも、必ず連絡先を交換しましょう。

中には「連絡先も交換させず、そのまま逃げられた」とお感じになる方もいらっしゃいます。連絡先の交換は、後日のトラブル回避にも必要不可欠です。

また、この咬傷事故発生時の飼い主様の誠実な対応は、被害者様への印象を左右します。トラブルを拡大させないためにも、出来るだけ真摯な対応をされるべきでしょう。


~ ポイント! ~

この時、警察官の方に噛みつき事故の調書をご作成いただくこともでき、その内容を元に事故の相手と連絡が取れるケースも散見されます。
※個人情報の観点から、相手の連絡先を開示してくれない場合もあります。

ただしこの調書は、噛みつき事故に刑事事件の側面があるかを判断する要素が強く、噛みつき事故に関する当事者の話し合いに、警察の方が介入してくれるとは限りません。

警察の方は、あくまでも民事不介入(ここでは和解に介在しない)の立場ですので、長所を取ったから全て任せて安心、という事ではありません。


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ケガの治療と治療費の事前確認

次に病院でのケガの治療と、治療費に関する事前確認です。

ケガが軽度の噛み傷・ひっかき傷の場合、ガーゼによる処置などで済ましがちですが、感染症の疑いがあるため必ず病院で診療を受けてください。

その診察の流れに関しては、まず以下の手順をご参考ください。

ケガの診察の流れ(噛まれた方のケガ)

  • 医師に飼い犬の予防接種の時期と有無を伝える
  • ケガの治療(破傷風・狂犬病ワクチン接種を含む)を行う
  • ケガの治療診断書のコピーをもらう
  • 完治までの期間・費用・次回ワクチン接種時期を伺う
まず噛まれたケガの治療に際して、飼い主の方から医師に飼い犬の予防接種の時期と有無をお伝えします。これは破傷風予防・狂犬病の予防接種を行うための情報です。

ただ中には、国内における狂犬病自体の発症がほぼないことから、狂犬病ワクチン接種が必要ないとご判断される場合もあります。その際にも破傷風のワクチン摂取など、将来的に複数回打つものに関するご予定も伺いましょう。

また犬の咬傷事故の場合、犬歯の跡も小さく軽傷に見えますが、内部炎症により指を切断したケースもあります。「あの時に治療しなかったからだ!」と、後日大きな問題にならないよう、最善を尽くしましょう。

自己判断で治療を行わず、医師による診療記録も残っていない場合、咬傷事故による怪我であるかの判断自体が難しくなる場合があります。


~ ポイント! ~

日本国内では長い間、狂犬病は発症しておりません。そして多くの飼い主の方は、そのことをご存知です。

ただ普段犬と触れる機会のない方には「狂犬病=死に至る感染症」のイメージがあります。
ご自身の感覚ではなく被害者の方のお気持ちになり、狂犬病の予防接種を受けていることをご提示ください。

予防接種済みだと、すぐに知らせなかった!」と憤慨される方もいらっしゃいます。


次に、ケガの治療にかかった実費を把握するため、診断書のコピーをいただきましょう。この診断書のその原本は噛まれた方が保管し、そのコピーをお互いの加入保険会社への提出や、健康保険の適用時にも利用します。

ただし破傷風ワクチン接種に関しては、一般的に計3回の摂取が必要です。将来的に発生する治療費の支払いの有無に関しても、必ず保険会社様にご確認されて下さい。


~ ポイント! ~

多くの咬傷事故の和解では、病院までの交通費や将来的なワクチン接種費用は、飼い主の方が負担します。
そのため、この段階で発生する治療費は、領収書等で実費を確認しましょう。

特に破傷風・狂犬病のワクチン接種は一度だけではなく、初回・二回目・3回目(約半年後)の複数回実施されます。そのため和解までにかかった実費費用だけでは、十分補えない場合があります。

そのため和解に向けたお話し合いの時に、将来的な治療費もお支払いできるよう、事前に病院等で費用をご確認されると良いでしょう。


各種保険の適用

次に、ケガの治療費に適用される各種保険の有無と適用条件を確認しましょう。

ここでは、飼い主と被害者の両者の加入保険の適用を検討します。

  • 噛まれた方の健康保険の適用を確認する
  • 噛まれた方の労災の適用を確認する
  • 飼い主のペット保険の適用を確認する
もし噛まれた方が健康保険に加入しているなら、加入先の「国民健康保険」「共済組合」「健康保険組合」の適用を考慮します。

この際、噛まれた時間帯によっては「労災(勤務先の保険)」が適用される場合もあります。

ただしこれらの保険を適用する場合、当事者による和解を行うべきでないケースもあります。これは保険会社からの請求と、個人間の和解による請求が、重複してしまう可能性があるためです。

この対処法は、適用する保険会社様に「個人間の和解はどのタイミング行って良いのか」と、単刀直入にお伺いする事です。つまり保険会社が請求・支払いできる状態に維持する、という点が保険適用時の注意点です。

さらに被害者の中には、『保険適用には時間がかかるため、実費で支払って欲しい』と仰る方も少なくありません。その場合には、和解に向けてどこまで実費で支払えるか等の駆け引きが生じるでしょう。


~ ご注意! ~

保険の適用には、被害者の方からの連絡や書類の提出などの協力が必要です。

さらに「少額だから保険の適用をせずに、すぐに支払って欲しい」と要望される場合もあります。その場合は、お支払いする金額の大小により、保険の適用を検討すると良いでしょう。

参照:飼い犬にかまれた時の健康保険の適用方法と示談に関する注意点


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飼い主による噛みつきの報告と届出

次に、飼い主側の噛みつき事故に対する各種の報告義務を果たしましょう。

まずは、自治体(多くの場合、お住まいの地域の保健所)に以下の手続きを行います。

  1. 飼い犬の咬傷届」を24時間以内に保健所に届出する
  2. 飼い犬を48時間以内に獣医師に診断してもらい「検診証明書」を取得する
これらは「噛みつきの報告」と「飼い犬の感染症の有無確認」のための手続きです。

まず犬の飼い主は、地域保健法の条例などで定められた管理規定を順守しなければならず、その中には他者に噛みついた犬に対する飼い主の責任・義務が規定されています。

東京都動物の愛護及び管理に関する条例

第29条 (事故発生時の措置)

1 飼い主は、飼養し又は保管する動物が人の生命又は身体に危害を加えたときは、適切な応急処置及び新たな事故の発生を防止する措置とともに、その事故及び措置について、事故発生から24時間以内に、知事に届け出なければならない。
2 犬の飼い主は、その犬が人を噛んだときは、事故発生から48時間以内に、その犬の狂犬病の疑いの有無について獣医師に検診させなければならない。

参照:東京都動物の愛護及び管理に関する条例 (※東京都条例)

ご覧の様に、まず飼い主は飼い犬の噛みつき事故を最寄りの保健所(動物愛護センターなど)に報告しなければなりません。地域の条例ごとに差異はありますが、基本的には同様の義務が課されています。
確かに、保健所には殺処分のイメージがあるため、少し連絡を躊躇するお気持ちも分かります。

ただ、保健所は殺処分だけでなく今後の予防策を講じる場でもあります。愛犬のためにも、今後の再発防止策を講じることも大切です。

参照:愛犬が人を噛んだ時の保健所の対応と殺処分の可能性

また保健所への報告は、ケガの治療にあたった医師・被害者の方からも行うべきとされていますが、必ず飼い主からも報告しましょう。

それは保健所だけではなく、被害者の方への印象にも繋がります。


~ ご注意! ~

被害者の方から保健所に連絡をしたとき、飼い主からの連絡が入っていない場合、その事実にすぐに気づきます。

その場合は一気に心証が悪くなりますので、保健所にはできるだけ早く連絡を入れておきましょう。


保健所への飼い犬咬傷届の提出

そして保健所に連絡をした際、飼い主の方から「飼い犬の咬傷届」を届出します。
この飼い犬の咬傷届の申請は平日の営業日ですので、夜間帯の噛みつきの場合には、必ず翌平日の営業時間帯に届出を行います。

保健所は場所により異なりますが、平日の朝8時30分~朝9時に営業を開始し、夕方17時~18時まで営業しています。

申請は無料、代理人による申請が可能です。

獣医師による検診証明書の発行

次に、飼い犬の感染症の有無の確認です。

噛みつきから48時間以内に獣医師の検診を受け、飼い犬の狂犬病・その他感染症の有無を確認しましょう。

狂犬病は今もなお危険な感染症と認知され、噛まれた方の不安事項の一つです。
日本では1956年以降発生していませんが、世界では現在も年間55,000人が亡くなっている感染症です。

飼い犬が狂犬病の予防注射を受けていない場合、もしくは接種が不明の場合は計3回の検診が必要です。検診後は「検診証明書」を受領しましょう。

この2つの手続きが終わったら、次は以下の手順を踏みましょう。

  • 検診証明書」を保健所・噛まれた方に提出する
  • 噛まれた方から「犬による咬傷被害届」を保健所に提出してもらう
まず、獣医師の検診証明書を保健所と噛まれた方に渡します。

保健所は、この証明書によって予防接種の有無管理状態を確認します。噛まれた方は感染症の不安が解消され、何より飼い主としての責任を果たしていることを伝えられます。

また、保健所に検診証明書を提出する時に、保健所以外に報告すべき場所があるか伺いましょう。お住まいの自治体により報告義務先が異なるため、このタイミングで保健所に直接伺うと確実です。

次に噛まれた方に「犬による咬傷被害届」を保健所に提出していただけるようお願いします。これは、狂犬病予防の観点から自治体が被害状況を把握するためです。

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和解に向けた話し合いの手順

これで、噛みつき事故に対する届け出は完了しました。

次は、いざお話し合いによる和解です。

当事者で和解を行う場合は、以下の手順で進めます。

  • 誠意的な謝罪を行い、話し合いの場を設ける
  • 話し合いに必要な書類を用意する
  • 噛まれた方との話し合いを行う
  • 和解書・示談書を締結する
  • 治療費・慰謝料などをお支払いする
飼い犬の噛みつきに対する、被害者の方の反応は様々です。
ただ、どのような場合でも、飼い主の方の誠実な態度が平和的なお話し合いに繋がります。

まずは十分に話し合いのシュミレーションを行い、より平和的な和解を目指しましょう。


~ ご注意! ~

噛みつき事故で民間の保険を適用する場合には、保険会社が被害者の方と支払い金に関する連絡が取られます。
ただし、その金額でご納得いただけない場合、別額の慰謝料を提示されるケースも見られます。

その金額を保険会社が支払えないと判断した場合、当事者間の和解が選択されやすくなります。


当サイトでは、ペットトラブルでの話し合いから和解までの手順を、以下の記事で徹底的にご説明していますので、ぜひご覧ください。

参照:飼い犬に噛まれたら?話し合いから和解までの手順マニュアル
   飼い犬が人を噛んでしまった時の効果的な誠意のある謝罪方法

ペットトラブルを治める和解契約書の作成

そして、お話し合いによる和解ができた場合、後日の請求や責任追及を避けるために、必ず示談書和解書を作成しましょう。
これは飼い主だけでなく、愛犬を守るための重要な書類でもあります。
愛犬の噛みつき事故が発生した場合、飼い主の方は非常に弱い立場になります。
そして、その点に漬け込んだ治療費や慰謝料の追加請求なども、多く散見されます。

書類の作成には少し手間がかかりますが、ご家族様や愛犬を守るために必要な手続きです。

当サイトでは、ペットトラブルにおける和解契約書の自作方法を、以下の記事で徹底的にご説明していますので、ぜひご覧ください。

参照:ペットトラブルの示談書作成手順とその書き方(文例付き)