ペットショップで購入した犬・猫の治療費の効果的な請求方法

ペットショップで購入したペットが、病気に感染している場合があります。

そして動物病院に連れて行くと、先天的な病気だと診断されることがあります。

ここではペットショップへのペットの治療費請求について、専門の行政書士が詳しくご説明します。

この記事が、ペットトラブル解決のお役に立てば幸いです。


ペットショップ側が負う法的責任

購入したペットが病気に感染していた場合、ペットショップ側には一定の責任があります。

ここでは特定の犬・猫の購入を目的とした「特定物売買」ではなく、たまたまペットショップで気に入った犬・猫を購入したような「不特定物売買」の場合をご説明します。

不特定売買の場合は民法401条により、売主であるペットショップは「中等の品質」の商品を提供しなければなりません。

民法401条1項 種類債権

債権の目的物を種類のみで指定した場合において、法律行為の性質又は当事者の意思によってその品質を定めることができないときは、債務者は、中等の品質を有する物を給付しなければならない。

まずペットが感染している病気の程度・種類を確認し、それでもなお中等の品質を満たしていると言えるかどうかが、最初のポイントです。
治療しても治らない種類の病気や、先住犬に感染した場合に命の危険がある感染症の場合は、中等の品質だと主張することは難しいでしょう。

売主が「中等の品質の物」を提供しなかった責任を回避するためには、売主は帰責事由、つまり故意または過失がなかったことを立証しなければなりません。これは買主ではなく、売主が立証しなければなりません。

そしてこの立証には、難しさがあります。

と言うのも、ペットショップの経営には「第一種動物取扱業」としての登録が必要です。その「第一種動物取扱業」に対して、平成24年改正の動物愛護管理法では、以下の義務が明記されています。

動物愛護管理法 21条4項

第一種動物取扱業者のうち犬、猫その他の環境省令で定める動物の販売を業として営む者は、当該動物を販売する場合には、あらかじめ、当該動物を購入しようとする者(第一種動物取扱業者を除く。)に対し…~(中略)当該動物の飼養又は保管の方法、生年月日、当該動物に係る繁殖を行った者の氏名その他の適正な飼養又は保管のために、必要な情報として環境省令で定めるものを提供しなければならない。

動物の愛護及び管理に関する法律施行規則

 

販売に際しての情報提供の方法等

法第二十一条の四(上記の動物愛護管理法)の適正な飼養又は保管のために必要な情報として環境省令で定めるものは、次に掲げる事項とする。

十六. 当該動物の病歴ワクチンの接種状況

上記によりペットショップは、販売する犬・猫が重大な病気を持っていたことを認識していなかったと無過失を主張することは難しいでしょう。

次にペットショップ側の責任は「購入時に既に病気になっていた場合」と「購入後、引き渡しまでに病気になった場合」で異なります。

購入時に既に病気になっていた場合

通常、ペットショップと購入者は健康な子犬・子猫を販売する契約をします。

ペット販売などの有償契約(無料ではない契約)の場合、販売物(ペット)に欠陥(病気)があった場合、売主は瑕疵担保責任を負います。

この瑕疵担保責任とは、売買の目的物(子犬・子猫)に瑕疵(欠陥、ここでは病気)があり、それが取引上求められる通常の注意をしても気付かない場合に、売主が買主に対して負う責任のことです。

簡潔にいうと、購入者は通常、販売されているペットが病気であると気づくことは難しい。その場合に売主であるペットショップは、購入者に一定の責任を負わなければならない、ということです。

この欠陥(病気)で購入の目的が達成できない場合、購入者は売買契約を解除し、ペットショップに代金の返還と損害賠償を請求できます。

この目的が達成できないとは、狩猟犬として購入したにも関わらず、先天的な関節症などにかかっており、狩猟(犬の購入目的)を果たせない、といった場合などです。

手術や治療により完治する場合や、完治しなくても病気の程度が軽い場合は目的が達成できないと見なされることは難しくなりますが、通常ペットの購入に専門の目的はなく、言うならば愛犬として家族として、共に生活することが目的です。

そのため目的の未達成のために契約を解除するのではなく、瑕疵担保責任を理由として損害賠償(治療費)を請求するのが一般的です。

購入後に病気になった場合

購入してから引き渡しの間に病気になった場合、ペットショップ側の管理不足です。この場合、債務不履行により、契約の解除と損害賠償を請求できます。
債務不履行とは、売買などの有償契約で、一方が他方に対して負う義務を果たせなかったことから生じる責任です。

ここではペットショップの管理不足によって、購入者に健康な子犬・子猫を届ける義務を果たせなかった責任を指します。

そして不特定売買(特定の犬を指定せず、種類のみ指定している)場合には、購入したペットの交換も可能です。

特定物売買(この子犬!といった指定をしている購入)の場合、特約で定めているか、ペットショップが任意に応じなければ交換できません。または交換の代わりに、病気である犬・猫の実際の取引価格との差額を請求することになるでしょう。

ただ、実際に飼い始めると愛着が湧き、治療後も飼育したいと考える場合が大半です。そのため、売買契約の解除やペットの交換の代わりに、損害賠償請求(治療費もしくは差額の請求)を行うのが一般的です。


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請求できる治療費額

治療費の全額をペットショップに請求できるとは限りません。
通常、購入時の売買契約書には損害賠償の上限額が記載されています。

飼育上、重大な支障をきたす先天性疾患が見つかった場合は、販売価格の15%を上限に治療費を支払う」などの記載がある場合、ペットの購入代金を大幅に上回る治療費を請求することが難しいでしょう。

完治までに入院・投薬・手術を繰り返した結果、30万円をこえる治療費を負担した場合などが、その例です。

ペットショップに治療費の支払いを求める裁判においても、治療費全額の支払いを認めない判例があります。それでも治療費全額を請求するか、別途の判断が必要です。

効果的な主張方法

ペットショップへの請求には、以下が重要です。

売買契約に関する主張

  • 売買契約書の特約を事前に確認する
  • 消費者契約法にて、契約書の特約が無効である主張をする
通常、ペットショップが用意する売買契約書には特約が明記されています。
特約とは、契約書などに記載する特別の条件です。この特約に「ペットショップは、目的物である犬・猫に病気や障がいがあったとしても、一切の責任を負わない」の文言が記載されている場合があります。

特約がある場合は、その定めに従う必要がありますので、一見すると治療費の請求ができないように見えます。

しかし諦めることはありません。ペットの購入者は消費者であり、消費者を守るための法律である消費者契約法により、特約が無効になる場合があります。

そのため、ペットショップが「一切の責任を負わない旨を特約に明記している」と主張した場合には、消費者契約法により無効になると主張できます。

また同法4条にも、情報格差のある消費者を保護する規定があります。

消費者契約法 第四条

消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次の各号に掲げる行為をしたことにより当該各号に定める誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。

一  重要事項について事実と異なることを告げること。 当該告げられた内容が事実であるとの誤認

ペットショップが「健康な犬・猫ですよ」と告知していたにもかかわらず病気に感染していた場合には、上記の「不実告知」に当たり、契約の取り消しを請求できます。

契約書内の健康状態に関する項目の「健康状態に異常はない」といった記載などを確認しましょう。

病気、治療費に関する主張

  • 動物病院で詳細な診断書を出してもらう
  • 治療費の内訳から、具体的な治療費を請求する
ペットショップが請求を認め、速やかに対応すれば良いのですが、実際には難しいでしょう。なぜなら「ペットショップにいる間に病気になったとは限らない」という言い分があるからです。
そのため、動物病院で「病気になった時期」「病気の原因」などを明記した詳細な診断書を出してもらう必要があります。

診断の結果、ペットショップ内の別の犬から感染したなどの経路が判明することもあります。動物病院でプロによる診断書を発行し、治療費の請求理由に説得力を持たせましょう。

参照:ペットトラブルで求めるべき獣医診断書への詳細原因の記載

また治療費の詳細な内訳を算出しておきましょう。具体的な内訳が明記されていない治療費を請求した場合、詐欺の可能性を疑われることがあります。

治療費の請求手順

治療費を請求するには、以下の方法があります。

  • 直接来店・電話をする
  • ショッピングモールに出店している場合、お客様相談窓口に連絡する
  • 内容証明郵便で治療費を請求する
ショッピングモールなどに出店している場合には、モールのお客様相談の窓口に連絡する方法があります。

確実に対応してもらえるとは限りませんが、高確率でモールからペットショップに連絡が入ります。

またペットショップが誠実な対応を見せない場合や、返答がない場合には、内容証明郵便で治療費を請求する方法が効果的です。

ただし、内容証明郵便の送付には注意点があります。事前に以下の記事をご参照ください。

参照:ペットトラブルでの内容証明郵便の作成方法と送付マニュアル

内容証明郵便を送付する際には、治療費を請求する意志だけでなく、同時に請求の根拠となる診断書と治療費の内訳を用意しましょう。治療費請求の意思表示と同時に、請求額と振込先を明記した内容証明郵便を送付しましょう。
ペットショップで購入したペットが病気だった場合、消費者には治療費を請求する正当な権利があります。契約書を確認し、しっかりとご自身の請求の意思をお伝え下さい。