また連絡が取れなかった犬の飼い主と、連絡が後日取れることもあります。
ここでは噛みつきの治療費・慰謝料の時効について、詳しくご説明します。
この記事が、ペットトラブル解決のお役に立てれば幸いです。
噛みつき事故に対する請求の時効
まず最初に、治療費や慰謝料を請求できる権利についてお話をします。
今回のように咬傷事故の後日に治療費等を請求する場合、請求権に関する時効を確認する必要があります。
時効とは
飼い犬に噛まれたケースでは、飼い主に治療費・慰謝料を請求する権利があります。
それらを請求せず一定期間放置した場合、時間の経過とともに請求権利が喪失します。これを消滅時効と呼びます。
これは請求できるにも関わらず放置している「権利の上に眠る者」は保護されないという法制度です。
飼い犬に噛まれた場合の消滅時効
そして不法行為に対する損害賠償請求・慰謝料の消滅時効は以下の通りです。
消滅時効 | |
---|---|
被害者またはその法定代理人が損害及び加害者を知った時 | 3年間 |
不法行為が発生した時 | 20年間 |
後遺症が発症した時 | 3年間 |
その場合、3年間の消滅時効の起算日である「被害者またはその法定代理人が損害及び加害者を知った時」がいつになるのかが焦点となります。
この点に関し、最高裁により「加害者の住所氏名を的確に知り、損害賠償請求が事実上可能になった時点」が起算日である、との判例が出ています。(最判昭和48年11月16日)
これにより、飼い主の名前を知り、治療費・慰謝料を請求できる状態になってから、消滅時効が起算されると考える余地があります。
時効の利益を受けるための時効の援用
ただ、消滅時効が経過した場合も直ちに請求権が消滅するわけではありません。
債務者(この場合飼い主)が時効の利益を受けるためには、時効の援用を行う必要があります。
民法145条 時効の援用
時効は、当事者が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。
これは時効の利益を受けたくないと考える当事者の意志を尊重するため、時効援用により初めて権利が消滅するという規定です。
このように消滅時効を経過した後でも債務者(飼い主)が時効の援用をしない限り、治療費・慰謝料の請求が可能と考えられます。
時間が経過した場合の注意点
そして民法上は請求が可能な場合も、時間の経過した治療費・慰謝料請求には注意が必要です。
それはペットトラブルの特徴に加味した、以下の理由からです。
- 噛みつきのケガの状態を確認しづらい
- 当時の感情が風化している
- 詐欺と疑われる可能性がある
多くの場合、自分に不利な部分をあえて思い出そうとはせず、自分の飼い犬が本当に悪かったのか、相手が不用意に飼い犬に近づいたから噛みついたのではないか、という意識が生まれます。
それにより、お話し合いは噛みつき直後より格段に難しくなるでしょう。
そのため噛みつき事故から時間が経過した場合の治療費・慰謝料の請求には、様々な配慮が必要です。
効果的な請求方法
噛みつきから時間が経過した場合、以下を配慮した請求が効果的です。
- 請求に時間がかかった理由を明記する
- 事前に医師の診断を受ける
- 治療費は実費、慰謝料は一般的な範囲に留める
- 治療に保険を適用したかどうかを記載する
まずは請求が遅れた理由ですが、一般的には以下の場合があります。
- 飼い主(請求相手)が見つからなかった
- 最近の検査で異常が見つかった
- 時節の折にケガの跡が痛むようになった
そして当時の感情に関しても最低限に捉え、まずはお話し合いを求める文面にすることも効果的です。
治療費は実費で計算し、慰謝料請求も一般的な範囲に留めると良いでしょう。ケガの治療に関して健康保険などを適用した場合には、その旨も記載しましょう。
合わせて相手方との和解を目的としている部分を全面的に示し、より平穏に治めたい意思を含めるべきでしょう。
トラブルの性質や状況に応じて、最適な文面をご作成下さい。