慰謝料のお支払いを
お約束してもらうには?
そして安全に治める方法に、個人間で交わす示談書・和解書があります。
ここではペットトラブルにおける示談書・和解書の書き方について、専門行政書士が丁寧にご説明します。
この記事が皆様のトラブル解決につながれば、大変嬉しいです。
\簡単に作れる犬の噛み付きの和解契約書🐶/
犬の噛み付きの示談書・和解書の作成目的
この書類の目的をご理解いただけば、よりスムーズにお書きいただけます。
まず、ペットトラブルでの示談書・和解書は、以下を目的に作成します。
- 治療費の支払い等(飼育改善など)のお約束を明確にする
- トラブルを当事者の間で治める(追加の請求を防ぐ)
- 相手が約束を守らない時の請求根拠を用意する(支払いなどを促す)
そしてペットトラブルでは裁判を使わずにお話し合いで解決するケースが多く、この示談書・和解書が広く活用されています。
それはペットトラブルに、以下の種類が多いからです。
- 噛みつきトラブルで、治療費・慰謝料を支払う
- 騒音トラブルで、飼育改善方法を話し合いで決める
- 譲渡トラブルで、ペットの返還条件と費用負担を決める
さらに、ペットトラブルには近隣住民との争いも多く、より平和的に治められる和解が選択されています。
話し合いで決めた飼育環境の改善やほえ声などの騒音予防では、具体的な対処法を話し合い、口頭では記録に残らず、忘れる・うやむやにされることも多々あります。
またご近所トラブルの場合、目に見えて改善されない場合は再度ペットトラブルになる可能性があります。
そのためにも示談書・和解書に改善の期日や改善方法を具体的に明記し、「何をすればいいのか」をはっきりと約束する方法が効果的です。
トラブルの相手と、今後一切連絡を取りたくない場合もあるでしょう。
その場合には「当事者及びその関係者は、今後一切連絡を取らない」などの条項を盛り込むと良いでしょう。
また最近はSNSなどのコンテンツに、愚痴や批判を掲載される場合もあります。
その場合に備えてSNSやブログに一切記載しない・他言しない旨を含めると良いでしょう。
和解書と示談書の違い
簡単にご説明しますので、ご自身のトラブルにいずれの書類が最適かをご確認下さい。
まずは、以下の和解と示談の違いをご確認ください。
和解:争いを治めるために、お互いが譲歩する(義務を負う)。
示談:争いを治めるためにお話し合いで解決して、トラブルが終わったことをお互いが確認する。
そのなかには、一方が全面的に譲歩してトラブルを治める場合もある。
ベンチに座っていたら飼い犬にいきなり噛まれたり、自分から撫でようとして噛まれるケースなどもあります。
そして被害者も「被害届を出さない旨」や「保健所に何も要請しない旨」などの取り決めをする場合もあります。
この様に、お互いが譲歩する(お互いが義務を負う)のが和解であり、一方が全面的に譲歩する(義務を負う)のが示談をお考えいただくと分かりやすいでしょう。
そしてこの和解と示談には、以下の違いがあります。
和解:確定効が発生せず、和解したトラブルを再度争えない。
示談:当事者の一方が一方的に義務を負う場合には確定効が発生し、示談したトラブルを再度争える余地が生まれる。
民法696条(和解の効力)では、当事者の和解により解決したトラブルの事実に錯誤があった場合には、その和解したトラブルに対して無効であると主張できなくなる効果のこと。
ただし、無効を主張できなくなるのはトラブルの事実に対してであり、事実でない部分(トラブルの当事者がお互いに「そんなの当たり前だ」と認識していた前提など)の錯誤に対しては、無効を主張できるとされます(最高裁昭33年6月14日判)
和解書は、もう一度トラブルが持ち返す余地がない。(民法696条が根拠)示談書は、もう一度トラブルが持ち返す余地がある。
この様にお考えいただくと良いかと思います。
ただし、その場合にも契約書のタイトルを変えるだけでは効果はありません。
契約書の内容自体が「和解契約書」になっていること、つまり「お互いが譲歩する条項を記載すること」が求められます。
お互いが譲歩するには、飼い主が求める条件を記載しましょう。
ペットトラブルでは、飼い主様も自愛犬に対して何を請求をされるのだろうと、不安なお気持ちです。
飼い主様が求める条件をこちら側にも組み込むなど、双方に義務が発生するような配慮をしましょう。
書類作成からお話し合いの流れ
次にペットトラブルの示談書・和解書を、実際に作成してみましょう。
その前に書類作成までの話し合いの手順を、説明します。
- トラブルの当事者で話し合う
- 実際にお話し合いをする
- 示談書・和解書の締結を提案する
- 署名・押印する
- (番外編)示談書・和解書を公正証書にする
- 取り決めた内容に沿って、お互いの義務を履行する
- 約束が守られない場合、履行を請求する
では、それぞれのステップを確認してみましょう。
トラブルの当事者で話し合う
もし直にお会いしない場合には、話し合いの内容を元に示談書・和解書を作成し、こちら側が署名押印をした2通をお送りして、相手方にも署名押印をしていただき、ご返信いただく方法があります。
示談相手を取り違えた場合、示談書は原則無効となります。
さらに、示談書・和解書を送付し合う場合には、書類を書き換えられない配慮が必要です。
「捨て印を押さない」「条件部分に空白部分を用意しない」「契約書を袋とじにして契印を施す」「金額を漢数字で表記する」「金額の前に金と入れる」など、細かな配慮を施し、絶対に書き直されないようにしてください。
実際にお話し合いをする
次に実際にお話し合いを行い、治療費の支払いや期日などの細部を取り決めます。
話し合いでは必要な書類を持参し、以下を算出します。
- ケガの治療費
- 病院までの交通費
- 診断書作成費用
- 休業補償
- 逸失利益
- 精神的苦痛に対する慰謝料
- 後遺障がいによる慰謝料
- 示談書・和解書作成費用
トラブル内容に応じて「何をお支払いするか」「いつまでにお支払いするか」など、各種の詳細を定めましょう。
以下の記事では、トラブルに応じた細かな対処法とお話し合い事項をご紹介しています。
里親トラブル:虐待・放棄の疑いがある里親への効果的なペットの返還請求方法
悪臭、騒音トラブル:ペットの悪臭トラブルの和解に向けた効果的な話し合い手順
愛犬の交通事故:愛犬の交通事故における治療費・損害賠償と具体的な請求方法
示談書・和解書の締結を提案する
そしてお話し合いの内容を元に、示談書・和解書を作成しませんか、と持ち掛けます。
トラブル初期にご締結を提案しても良いですし、相手の態度を確認してご提案されると良いでしょう。
先に示談書・和解書を作成して、お話し合いに持参する方法もあります。
その場合には、相手方に納得していただける条件に仕上げ、二通作成してお話し合いに臨むと良いでしょう。
また法律事務所等で書類を作成する場合、作成費用について「こちらも正式に和解したいので、書類費用は折半しましょう」といった言い回しが、より平和的です。
※噛みつき事故では、飼い主側に作成費用を負担していただくケースが多く見られます。
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(番外編)示談書・和解書を公正証書にする
これは作成した和解契約書・示談書を、公証役場にて公正証書にしてただく方法です。
これにより治療費・慰謝料などの金銭に関する支払いがない場合、裁判等を行うことなく強制執行にて金銭を徴収できます。
公正証書の作成には、行政書士などの代理人を立てることが可能です。
相手方に「時間がないから公証役場まで同行できない」と断られる場合に備えて、作成代行を選任するための委任状をいただいておくと良いでしょう。
約束が守られない場合、履行を請求する
最後に、相手側が約束を守らなかった(治療費を期間内に支払わない等)場合には、示談書・和解書を請求の根拠として請求しましょう。
この請求方法には、以下の方法があります。
- 最初に自分自身で文面にて請求する
- 強制執行を行う(公正証書にしている場合)
- 民事調停等を利用する
- 裁判等で決着をつける
そのため示談書・和解書を作成する場合は、必ず自分でも保管するように2通作成し、署名押印を施しましょう。
「示談書・和解書を作成しているから!」と言って、相手から無理やり金銭を徴収することは自力救済の禁止にあたる可能性が非常に大きいです。
これは司法制度が整備されている現在では、その手続きを経ることによって権利を行使すべきだ、という考えに基づきます。
参照:ペットトラブルの約束が守られない場合の効果的な4つの対処法
:ペットトラブルで支払いがない場合の催告書の書き方(文例付き)
示談書・和解書の具体的な書き方
最大の目的は再び争わない予防をすることです。
そのためにも、以下の内容を記載すると良いでしょう。
- 示談・和解の目的
- 示談・和解の対象となる事故詳細
- 治療費・慰謝料などの支払い条件
- 飼育改善などの具体的な内容
- 支払い期日、改善期日
- お互いの義務
- 示談書・和解書に記載された内容以外は一切請求しない旨
- 裁判管轄
- 示談書・和解書の締結日時と署名押印
今回は散歩中に飼い犬のリードを離し、通行人にかみつき、ケガを負わせてしまった例です。
まずは全体を確認し、埋められる部分から作成しましょう。
○○(以下「甲」という)と△△(以下「乙」という)は、下記の日時・場所において、乙が飼育する飼い犬(ゴールデンレトリーバ)が、甲の左足ふくらはぎにかみついた事故(以下、本件事故という)について、下記の通り和解(示談)する。
まず最初に、当事者の名前とトラブルの日時と場所、そして和解(示談)する旨を記載します。
つまり「これから以下のトラブルについて、以下の条件で和解(示談)しますよ!」と宣言する部分です。
第一条 紛争事実
乙は甲に対して、本件事故が散歩中に飼い犬のリードを誤って離すという乙の過失により発生した事を認める。本件事故の発生日時、概要は次のとおりである。
上記内容で合意したことの証明として、本書2通を作成し、甲乙署名押印のうえ、各自1通を保有する。
令和 年 月 日
甲 住所 ○県○市○町○丁目
氏名 ○○ ○○ ㊞
乙 住所 ○県○市○町○丁目
氏名 ○○ ○○ ㊞
署名とは、本人が自筆で氏名を書くことです。
記名とは自筆以外の方法、パソコン印刷や代書などの自筆以外の方法です。
署名のみでも契約の効果はありますが、署名 + 捺印の方が、より安全です。
また、新商法では「記名押印をもって、署名に代えるられる」とされています。
記名のみの契約書は無効ですので、ご注意ください。
また、示談書・和解書の一部を空白にしておき、お話し合いの場で手書きで書き入れる方法もあります。
その場合にも、後に改ざんされないように「ボールペンで記載する」「余白を作らない」「漢数字で記載する」「捨て印を押さない」「契印を押す」などの配慮が必要です。
示談書・和解書を作成しても刑事責任まで必ず逃れられるわけではありません。
示談・和解は民事責任に関する取り決めであり、刑事責任が別途発生した場合は、また別の問題です。(交通事故で人をひいてしまった場合など。)
ただしその場合でも、事前に示談・和解が成立している場合に、刑事罰が軽減されるケースもあります。
お互いのトラブルに対する示談・和解をしようとする意思が、少なからず評価されるのだと考えられます。
“犬の噛みつきトラブルの示談書・和解書の詳細な書き方(文例付き)” への1件のフィードバック